大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)796号 判決

被告人 渡辺嘉文

〔抄 録〕

論旨はいろいろ述べているけれども、その主張するところは、同弁護人が釈明するとおり、刑事訴訟法で定めている控訴理由のいずれにも該当しないものであるから到底採用することはできない。所論は入場税法の実施には無理があり、憲法の精神に違反するのみならず、税法違反の罪は形式犯罪であり、行政犯罪であるから、司法裁判所で審判するのは相当ではない。従つて本件公訴は棄却さるべきものであると主張しているが、入場税法の規定が憲法の精神に反するものであるとは認められないからこの点の所論は理由がなく、また入場税というものは興行者が国に代り入場者から徴収して国に納付するものであつて、興行者はそれを国の為に一時保管し、これをまとめて納入するだけのことであり、その納入については興行者自身になんらの金銭的負担をかけるものではないから、入場税の徴収に無理があるという所論もまた理由がない。そして、記録に徴すると本件公訴事実は、被告人が昭和二十九年五月から昭和三十年一月までの間において原判示映画館天津館の入場者から受取つた入場税金十六万七千百円の内金九万九千百八十円を不正の方法により納付せず、また前記期間内において小湊映画劇場の入場者から受取つた入場税金八万二百七十円の内金六万七百三十円を不正の方法によつて納付しないで免かれたというのであるから、それは入場税法第二十五条に該当する犯罪事実であることが明白であり、従つて裁判所がその裁判をする権限を有するものであることは多言を要しないところである。よつて論旨は総て理由がない。

所論は被告人の行為は罪とならず、少くとも被告人において犯意がなかつた旨を主張するものである。けれども原判決挙示の証拠によれば被告人が原判示各映画館の入場者からそれぞれ原判示入場税を受け取りながら原判示のような不正の方法でその一部を納入しなかつたことが認められるから、被告人の行為が入場税法第二十五条に該当する犯罪であることは明らかであつて、被告人にその犯意がなかつたということはできない。所論は、興行者は営業が不振の場合には、自衛上、客から入場税として受け取つた金を国に納付せず営業資金に流用費消できるのは当然であつて、少しも悪いことではないと主張するが、さきにも一言したように、入場税なるものは興行者が国に代つて入場者から徴収し、一ケ月毎に取りまとめて国に納入するため、一時預かつて置くに過ぎないものであるから、これを興行者自身の営業資金に流用費消しうべき性格のものでないのは明白である。従つてもし入場税を保管中の興行者がこれをほしいままに自己の用途に費消すれば背任もしくは横領などの刑事犯罪が成立することもありうるし、また当初から国に納入する意思がないのに入場者から入場税相当額を受領すれば詐欺罪の成立さえ考えられるものであるから、営業不振の場合には入場税を営業資金に流用し、これを国に納入しなくても差支えないものであるという所論の採用できないことは論をまたないところである。論旨はいずれも理由がない。

(花輪 山本 下関)

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